ナイフを突きつけられて
木は見てきたことの一部始終を話し始めた。
「わたしは強欲にも、辺り一帯を支配しようと思い、
根を届く限りまで伸ばしました。
すると、さまざまな動植物の言い争う声が聞こえてきました。
猪が、通り道に生えている奴らが邪魔だと言います。
背の低い草木は、自分らの存在の権利を主張します。
ミツバチが、約束の蜜ができていないと文句を言います。
花は、そんな口約束なんの意味もないと意に介しません。
モグラが、鳥の鳴き声を近所迷惑だと注意します。
鳥は、お前にわたしの気持ちが分かるかと鳴き続けます。
ヘビが、今年は肉の質が落ちたなとレビューを載せます。
カエルは、食べさせてやってるのに何様だと、名誉棄損で訴えます。
けれど、そんな口論があまりにも長く続くと、
森の主(あるじ)たちの怒りを買ってしまいます。
触れないほどささやかな彼らには、誰も逆らえないのです。
かく言うわたしも、隣のクスノキから不法侵入を言い立てられて
民事裁判に持ち込まれてしまったところでして、、、」
ナイフは芯から腐り、物言わぬ木は一層しずかになった。
余白